
第五十章 勝利の鍵 七話
「まだだぞ!」
「「おう!」」
奏根がすぐに加奈にパスを出す。
残り時間は七秒。
点数は百六十五対百六十九。
果たしてどうなる?
すぐに順子は加奈にパスを出す。
加奈はドリブルで飛翔を抜きにかかると見せかけ、飛翔の脇腹の右端にボールを強く投げる。
コートの下に投げつけられたボールは、キュルルと音を立て、更に右に曲がる。
曲がって向かった先は理亜だった。
残り四秒。
理亜はハーフライン手前でパスを貰おうとした瞬間、イリアスが最後の力でも振り絞る様にして、ボールに触れる。
しかも会場の観客に向け、振り上げられた右手に、ボールは観客の所に向かって行く。
ルーズボール所か、どう考えても、観客の手に渡る時には、タイムアウトにでもなる様なギリギリの瀬戸際。
しかし、理亜は諦めなかった。
だがボールは既に観客のゾーンにまで入っていた。
誰がどう見ても終わってしまう。
その時。
バン!
どこからか一発の発砲音がなった。
音が鳴ると同時に、観客に向かっていたボールは何かに弾かれたように、イリアスたちのリングに向かって行く。
そこで、理亜はハーフラインにまで走り、ジャンプした。
残り二秒。
ゴール下にまでジャンプしていた理亜は、リング手前でボールを掴むと、クルリと体で三日月を描く。
そこから理亜は、頭頂部がリングの真下に向かった時、ボールを強く投げる。
知留はタイミングが遅れ、豪速球で投げられたボールを、リングの真上でカット出来ずからぶってしまう。
すると、試合終了のブザーが会場中に鳴る。
その時には、ボールはリングの輪を通り抜けていた。
どうなった?
理亜はバックボードの上でヒーロ―ポーズで立ち止まり、審判のお兄さんを注視する。
観客を含めた全員の目が、審判のお兄さんに向けられてた。
審判のお兄さんは、万感の思いを込め、上に掲げた右手を、下に叩きつける様に振り下げた。
「や、やったーーー!!」
決まった。
決まったのだ。ブザービーターが。
豪真たちも大喜びをしていた。
奏根たちも互いに抱き合い、涙を流す。
理亜はと言うと、何故かあまりうれしくない様に、少し暗い表情で俯いていた。
その訳は一体?
理亜は下に降り、イリアスと対面する。
「参りました。個人でも、チームとしても完敗です」
「うううん。どちらかと言うと、圧倒されてたのはこっちだよ。でも楽しかった」
大量の汗を流しながら切ない表情で片手を差し伸べてきたイリアスの手を、理亜は迷う事無く握る。
理亜は少し後ろめいた思いでもあった。
それを見た観客たち、全員が立ち上がり、称賛した拍手を選手たちに贈る。
「最高の試合だったぜ!」
「さすが決勝戦!」
大絶賛された言葉が次々と会場から飛び交う。
すると、木佐がイリアスたちに近付いてくる。
「ふん。まったくしょうがない。だが愛そう。良くやった、我が子たちよ」
得意げに、そして堂々たる態度で胸を張って口にする木佐。
「だれが我が子だ」
代野が呆れながらツッコむとイリアスたちは笑い合う。
「整列してください!」
審判のお兄さんが最後の締めをするため、全員をコートの真ん中に集める。
奏根たちやイリアスたちも疲れ切った顔をしていた。
だが、アルティメットロードでイリアスたちの体力を奪っていた理亜だけは息一つ乱していなかった。
肩から呼吸する中、審判のお兄さんが「百七十対百六十九で、シャルトエキゾチックチームの勝です!」と力強く言う。
「「ありがとうございました!」」
理亜たちは最大の経緯と感謝を込め口にする。
パチパチと拍手の音が会場中に鳴ると、各々のメンバーたちが、互いの選手たちと握手していく。

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