
第五十二章 最高の思い出を君に届ける 七話
会場に付き、舞台裏で衣装に着替え、薬を服用する理亜。
豪真は心配だった。
最後まで演奏できるかどうかを。
「よっ、理亜」
「みんなー!」
ノックが聞こえてくると、楽屋の中に入ってきたのは奏根たちだった。
もちろん、芙美たちやイリアスたちも居る。
大人になった彼女たちもまた、魅力的で、人間的にも成長していた。
「いやー、それにしても奏根ちゃん」
「そうじゃん、そうじゃん。まさか本当に豊胸手術するなんて思わなかったじゃん」
「うっせえ」
理亜と静香が意地悪そうな笑みで奏根を弄りだす。
なんと奏根は、豊胸手術をしていて、トリプルAカップからGカップにまでなっていた。
どうやら、昔、彰に「ペチャパイ! ペチャパイ!」と大喜びしながら奏根の名前を呼ばれていたので、奏根はそれがショックで、断行する思いで豊胸手術を受けたのだ。
因みに、彰にそう吹き込んだのは静香である。
「「いや~い、偽乳偽乳~」」
まだまだ弄り足りなかった理亜と静香は、眉を細め、口元に両手の輪を添え、嫌味たらしく口にする。
「足腰ガタガタ言わすまでシバキ回したろか!」
ブちぎれる奏根。
「やれやれ、奏根は胸がでかくなっても結局、胸の事で弄られるんだな」
順子たちも揃って、そんな理亜たちを見て愛くるしく笑う。
「ま、とにかくだ。頑張れよ」
「理亜ちゃん、頑張ってください」
奏根がぶっきらぼうに先にエールを理亜に贈ると、メンバー全員が、理亜に労いの言葉と激励を贈ってくれる。
「みんな……うん! ありがとう!」
理亜はまだ始まってもないのに、泣きそうになってしまう」
「ほらほら、涙は最後に取って置くぞ。彰に会うまでな」
「豪真さん……ありがとう」
豪真と理亜は見つめ合いながら、今にでもキスでもするんじゃないかってくらい、胸の内がキュッとなる。
すると、そこに、思わぬ訪問客がやってくる。
「理亜ちゃーん」
「あ! さくちゃん!」
なんと、楽屋に新たにやってきたのは、ゼルチャートンソンチームのキャプテンだった佐久弥だった。
昔と違い、キツイ印象などすっかりなくなり、今ではイラストレーターで働きながら、育児をやっている人妻となっていたのだ。
「おう。久しぶりだな」
「お元気そうで何よりです」
「うん、ありがとみんな」
奏根たちも自然に佐久弥と話をし、笑みになる。
ゼルチャートンソンチームが解散となってしまった当時から、豪真が援助し、高校に行くお金を免除してくれただけでなく、就活活動までサポートしてくれたのだ。
「豪真さん。本当に何から何まで助けていただいて、ありがとうございます。それなのに、私、たいしたお返しが何も出来てなくて」
「気にするな。君が純粋に笑ってくれるだけでも、支えてきた甲斐があったと言うものだ」
少し寂し気に語り後ろめたく思う佐久弥に対し、豪真は笑い飛ばす。
それを見た佐久弥は、靄が晴れたかのように笑ってくれた。
「師匠もお久しぶりです。その節では本当にお世話になりました」
「コホン。まだまだですがね。なのでこれからも私の家に来て、しっかりイラスト制作、励んでくださいね。バシバシいきますから」
佐久弥は丁寧に加奈にお辞儀をすると、加奈は胸を張って威厳良く口にする。
絵の事になるとちょっとスパルタ気味になるのは加奈の癖の様なもの。
因みに、加奈は十八禁の漫画家になり、イラストレーターになる前の佐久弥にレクチャーする先生なのだ。

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