
第五十二章 最高の思い出を君に届ける 五話
そして、二年後。
理亜はプロのピアニストとなり、北海道では知らない人はいない、と言うくらい人気になった。
コンサートや記者の質問、メディアの露出、新曲披露など数々の仕事をこなしていった。
奏根たちも、この人気に驚き、祝福のメッセージやプレゼントなど、理亜に贈る。
寄せ書きもあり、理亜と豪真にめいいっぱい幸せになってほしいと言う願いを込め送られた。
ファンレターやファンからのサインの要求や、プレゼントなども送られ、そのエールに理亜と豪真は何度も救われた。
彰が居なくなってから、生き甲斐を見つけた二人。
いずれ、彰に最高のプレゼントを贈るため、とにかく幸せな毎日を望んだ。
理亜と豪真は沢山の人の支えがある事を、有難味を噛みしめながら、一日一日と過ごしていった。
しかし、悪夢は再び訪れる。
「えっ! ……ALS……?」
「……ああ……」
理亜は年に一回の人間ドック、CT検査で、なんと、最悪な事に、ALSを発症してしまった。
理亜は驚きのあまり、意識があるのかないのか分からないくらい、頭の仲がフリーズした。
診察して、診断結果をくちにした豪真は、既に泣いていた。
ALS、筋萎縮性側索硬化症。
手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて力がなくなっていく病気。
それは後に、心臓にも達し、心臓が鼓動しなくなる難病。
現在、どの世界でも治療方法は皆無で、発症したら最後、人工呼吸器がないと生きて行けなくなる体になってしまう。
また、人工呼吸器を使用しても、最終的には、目だけしか動かせなくなってしまう。
豪真だけでなく、理亜ももちろん、ALSがどんな病なのかは知っていた。
だからこそ再び絶望した。
暫くの間、豪真が泣く声しか聞こえない。
「すまない、理亜。今の医学では、ALSの治療方法はないんだ」
枯れた声で必死に伝える豪真。
豪真は憎んだ。
神と言う存在を。
何故、このような仕打ちが自分たちの身の回りで起きるのかを。
更に五分後。
理亜はゆっくりと目を閉じ、何かを決意する。
そして、ゆっくりと目を開ける
「ねえ、豪真さん。私、人工呼吸器は使わないね」
「――なっ⁉ 何故だ⁉」
優しく語りかけてくれる理亜の思いもしない言葉に、豪真は絶句するくらい驚く。
「私、思うんだ。もしかしたら、彰が一人じゃ寂しいから私を呼んでるんじゃないかって」
「いや、それは……」
理亜の優しい思い。
それは、天国に居るはずの彰が、無邪気に自分に手招きしている光景が脳裏に浮かんだ理亜。
だからこそ、理亜は「仕方ないなあ」と少し呆れながらも、笑いながらそう答えを出した。
目の前で彰が読んでいる。
しかし、理亜は少しの間、待ってほしかった。
その訳とは?
「大丈夫だよ。私ね、最高の思い出を彰に届けるまで、それまで死ねないから。せめてあと一年。何とかもってもらわないと。だから豪真さん。それまで私を支えてくれない? 私の最高のパートナーには、最後まで見守ってて欲しいの」
おっとりした面持ちで豪真に口にする理亜。
そんな理亜を見て、豪真はただ泣く事しか出来なかった。
暫くして。
「……分かった。全力でお前を支える。使える薬や延命治療に全力で当たっていく。愛しているぞ。理亜」
「うん、私も」
二人は涙を流しながらも笑みで口づけをした。
そして、そこからだった。
理亜が益々、人気になったのは。

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