
第五十二章 最高の思い出を君に届ける 一話
二カ月後。
砂川警察署内。
「なあ。聞いたか? 例の話」
「ああ。既にニュースで取り上げられてるしな」
所内のオフェスで、書類作成や書類整理をしていた輝美と善悟。
善悟はだるそうに聞くと、輝美は黙々とパソコンを打ち仕事をこなしながら口にする。
「クリプバ、解体。あの一軒以来、自民党の政治家たちは一斉摘発されて、賭場に関与した関係者も含め、全員逮捕。おまけに二カ月前、クリプバで優勝したアサルトハイドチームの賞金はパア。明人と銅羅を逮捕してから芋蔓式に片付いたて、俺たちはと言うと」
呑気に天井を見ながら語る善悟。
「そうだな。俺たちの所業がバレたってのに、所長は解雇されずに済んだ。そのかわりきついお灸を据えられたがな」
苦笑いしながら輝美は一旦手を止める。
あの事件以来、理亜は明人と三回面談した。
最初は理亜は明人を叱りつけようとしたが、いざ、老け込んでしまったかのように人形のような生気のない明人を見て、その言葉は出てこなかった。
むしろ、家族のために動いてくれた事への感謝の言葉と、そこまで追い詰めてしまった事への罪悪感。
その二つが、明人を目にして思った理亜だった。
「後さ、千川郁美の経緯、あれやばいよな」
「ああ。出身は韓国。本名はパ・ユンギン。八歳の頃にロシアに観光しに言った所、ビザの滞在可能日数が切れてるといちゃもんを付けられ、テロリスト扱いされ、収容所に監禁され、軍に入るか懲役二十年の刑に処されるか選べ、と選択肢を与えられた千川郁美は前者を選んだ。そして、軍で徹底的に鍛えられ、二十年間、各地の戦争地帯に派遣され、目まぐるしい戦果を挙げ、信頼を勝ち得た千川郁美は、ロシア人として移住権を獲得。その後、郁美の軍への辞職が許され、郁美は三十歳で軍を辞職。それから日本に移住する事も承諾され、日本に移住。夫となる千川和樹と結婚し、家庭を築く」
波乱万丈の郁美の経緯を苦虫を嚙み潰したように語る輝美。
輝美は腑に落ちなかった。
人の命と人権を食い物にしてきた世界を、睥睨するかのように、苛立ちが湧く。
「千川和樹。そいつが初代クリプバの会長で、新たなバスケ業界を作ろうとライバル企業との拳闘の末、クリーチャープレイバスケットボ―ルと言うネーミングで新たなバスケ業界を設立。当時はクリーンなイメージは勿論、テレビやネットでも宣伝され、普通のバスケにはないルールに客受けも良く、繁盛していた。十年後、千川和樹は何者かの手によって殺害され、後継人として網羅祥子が就任し、ペナルトギアはその時に網羅祥子が、有り得ない額を医療機関に裏金として渡し、ペナルトギアが製造された」
「その後、網羅祥子がクリプバを閉鎖するとメディアの前で口にし、実際は水面下でペナルトギアを使用させ、賭場や政治家たちの娯楽として、おこぼれなど貰っていた。胸糞悪い話だ」
事件のあらすじを再確認するため、輝美と善悟は暗い面持ちで淡々と話す。
この事件の一連の流れを見ても、祥子に非がないとは言い難い。
加害者でもあった祥子は、被害者でもあった。
「もっと胸糞悪い話はよ。あの網羅祥子だよな。あいつ、千川和樹が貯めてた莫大な資産を本当は千川郁美に遺産として渡すはずだったのに、網羅祥子が、全額横取りしたんだぜ。その金でペナルトギアを製造したんだもんな」
イラつきながら喋る善悟。
輝美と善悟は事件が終わり、刑事を首にさせられなかったのにも関わらず、やはり後味は悪かった。
どうにかして、ハッピーエンドが見たかった。
それは、訪れるのだろうか?
明人や銅羅は、裁判で無期懲役が言い渡された。
本当は死刑判決を検察側は下そうとしたが、弁護士が、善人ではなく、被害を被ってきたきた加害者をターゲットにしていた事、また網羅祥子に傀儡として銅羅は飼われ、明人は、お金がなく、困窮が原因と、情状酌量の余地があると、裁判長に異議を申し立てたとこ、受理され、死刑判決から無期懲役となった。
また、明人は取り調べの際中、輝美と善悟は、何故、同じ凶器で犯行に及んだのか?
ツエルブでさえ、犯行時、武器は指紋を拭き取り、現場に落として帰ると言うのに、明人は何故?
それは、明人が少しでも早く捕まりたいと言う願いだった。
捕まれば、もちろん依頼料のお金は入ってこない。
家族が本当の意味で飢えから逃れる事を願いながらも、これ以上、罪を重ねたくない。
矛盾を抱えていた明人が取った行動は、同じ凶器を使い、少しでも、自分が犯人だと言う証拠を残したかっただと言う。
泣きながら語る明人に、輝美が「気付いてやれなくて悪かったな」と感情輸入しながら口にすると、善悟が明人の背中を優しくなで「今まで辛かったろ」と優しく口にすると、明人は今までにないくらい号泣した。
コメント