クリーチャープレイバスケットボール 第五十一章 答え 二話

第五十一章 答え 二話

  しかし、理亜は俯いたまま、何のアクションも起こさない。 

 「どうしたの理亜ちゃん?」

 「どこか具合でも悪いのですか?」

 両端の隣に居た、聖加と高貴が心配した表情で理亜の顔を覗き込む。

 会場にいる客や、イリアスたちもどうしたのだろうか? と心配そうな面持ちで少し騒ぎになる。

 「……やっぱり駄目だ」

 「え?」

 理亜がぼそりと暗い表情で口にすると、司会者のお兄さんがキョトンとした面持ちになる。

 「ごめんなさい! 私、辞退させてもらいます!」

 精一杯、謝罪の気持ちを込め、頭を深々と下げ、叫ぶように口にする理亜。

 それを聞いた、会場中の者たちは「「えっ⁉」」と一驚する。

 そして、理亜は悔しそうにしながら、走って、出入り口に向かった。

 「おい! 理亜!」

 呼び止めようとする豪真。

 しかし、理亜は奥歯を噛みしめたまま突き進む。

 奏根たちは、ただ事ではない、と判断し、百億の入ったアタッシュケースを置いて、理亜を追いかける。

 出入り口を抜け、ただひたすら走った理亜。

 気付いた時には、北光公園に居た。

 簡素でがあるが、年季がある玩具。

 山が見える位置まで理亜は歩き、呼吸を整えながら星を眺める。

 「はあー」

 白い息を吐き出し、暗い表情が少し晴れた。

 そこで、後ろから、バスで追いかけてきたメンバーと合流する。

 「みんな」

 「どうしのじゃ? 辞退のと言うのは?」

 先に芙美が切り出すように話しかけると、メンバー全員が、不安な表情を見せる。

 「……実はさ、最後、イリアスちゃんにボールをカットされて、会場の中に入っていったボールを、明人が拳銃で撃って、そのままリングにまで行ったボールを私が決めたの」

 「「え⁉」」

 理亜が消沈気味で話すと、全員は驚愕する。

 「それはつまり、あってはならない六人目のメンバーからのパス、と言う事でしょうか?」

 確認のため、高貴が言い出しづらそうに口にする。

 「うん、だからあれは反則負け。言えなかったのは皆の笑顔に泥を塗る様な事はしたくなくて」

 「そうだったんだ」

 暗い面持ちで話す理亜に、エノアもシンクロする様に口にする。

 (しば)しの沈黙が続く。

 冬の寒さなど、関係なかった。

 ただ、ひたすら泣きそうな思いになる。

 理亜が鼻を啜ると、奏根が理亜の横に並び座る。

 キョトンとする理亜に、奏根は座れ問いわんばかりに、地面を軽く叩く。

 とりあえず座った理亜。

 他のメンバーももっと近くによる。

 「たくっ、俺らに遠慮してどうすんだ。良いかふしだら女。反則負けだろうが明人が介入しようが、俺らは戦い抜いた。確かに百億は惜しかったけど、それ以上に大切な物は手に入れたろ」

 「奏根ちゃん……」

 黄昏る様に星を見ながら話す奏根に、理亜は心に刻み込まれた。

 そして、理亜は後ろを見て、にっこり笑うメンバーの顔を見て、目頭を拭う。

 「そうだよ理亜ちゃん。私たちに取って結果よりも、結果がどうであれ、そこまでの経緯に、何が残ったかだよ」

 満面の笑みで母性的に口にする聖加。

 そこで理亜は嬉し泣きをする。

 涙を流しながら俯く理亜に、智古が理亜の頭を優しくなでる。

 フフフッ、と言った笑い声が周囲を暖かく包み込む。

 「んで、あんたらは一体、決勝戦で何を思ったんだい? 答えは出たのかい?」

 ニヤニヤしながら由紀子が口にすると、理亜は涙を拭い、皆の笑顔を一通り見てから立ち上がり、由紀子に身体を向ける。

 その表情は、熱く、優しい面持ちになっていた。

 「スポーツや何事にも置いて、結果を残すのは大事だけど、それ以上に大事な物があったって、たった今、気付かされたの」

 力強く暖かい言の葉に、由紀子も自然と笑みになりながらコクコクと頷く。

 「だから、何より大切なのは……仲間と培ってきた、思い出、かな」

 満面の笑みで口にする理亜。

 その思いには、確かなものがあった。

 誰よりも仲間を信じ、誰よりも支えたいと言う思い。

 だからこそ、理亜の言葉には、幼稚ではあったが、重みもあった。

 そんな理亜を見て、豪真と由紀子は互いに笑いながら一瞥すると、理亜たちに親指を立てる。

 グッジョブ。

 それが由紀子と豪真の判定結果。

 すると、理亜たちは笑い合い、冗談を言い合う。

 「それにしてもお前のエクストラロードもそうだけど、アルティメットロードの能力もエースらしくないよなあ。どう見ても偏屈やひねくれものの特権みたいま能力ばっかだし、これじゃあ、エースは俺に交代かもなあ」

 嫌味ったらしく口にする奏根に、プンスカ怒る理亜だった。

 因みに、先程の決勝戦では、豪真が会場に居る審判たちや関係者に事情を放し、アサルトハイドチームの優勝が決まる。

 こうして、クリーチャープレイバスケットボールは幕を閉じた。

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