
第四十六章 縮まらない差 一話
話は切り替わり、第三クウォータ―を残り三分切る展開。
芙美が乱歩・気流で、五人の幻影と共に、敵チームのコートに向かってドリブルして行く。
かく乱する様に、味方にパスを出したり、自分自身を横切るなどして、イリアスに、どの芙美が本物なのかを分析させないためだった。
飛翔はひっきりなしにエアコネクトで芙美のボールを弾いていくがどれも偽物の芙美だった。
スリーポイントラインやハーフラインから五人の芙美がジャンプシュートしようとした。
断続的にシュートを打つ中、イリアスと賀古と代野が、ジャンプし、芙美のボールをブロックしようとする。
しかし、芙美はフェイダウェイシュートで打つ。
だがそれも計算済みだったイリアスたちは、ファール覚悟で前へ進む様に、芙美の正面、ギリギリまで手を伸ばす。
すると、三つのボールが偽物だと分かり、残る内、二つのボールが本物と混ざっている事を確信した飛翔は、エアコネクトでその二本のボールを空気圧で弾けさせた。
すると、一本のボールが当たり、バン! と弾かれると、右サイドに向かって飛んでいく。
その後を追う、智古と賀古。
ルーズボールとなったボールを飛び込んで手にしたのは智古だった。
智古は手で押し戻す様に叩くと、加奈が手にする。
幸いなことに、智古が突っ込んだ場所に、障害物はなく、ただコートの下に着いたため、大事無くて済んだ。
加奈がボールを持つと、明鏡止水、抜刀の構えで向かってくる飛翔。
すると、どう言うわけか、加奈は敵陣のリングに向かって片手でボールを投擲する。
力強く投げられたボールは、アリウープなのか? と脳裏を過らせたイリアスと代野は、リングに向かって走っていく。
しかし、そのボールは、急激に下に曲がる様に落ちていく。
フリースローラインに落ちたそのボールを、芙美が手にし、透かさず乱歩・気流を発動させ、五人が横付近に点在し、断続的にジャンプシュートを打つ。
飛翔は、急いでエアコネクトを発動させるが、使えたのは二回のみ。
急だったため、指をそう何度も鳴らせなかったのだ。
代野はジャンプしようとしたが、奏根がスクリーンをかけ、そうはさせない。
イリアスはフリーだったが、ジャンプしてブロックしようとしたボールは空振り、幻影を追っていた。
残る知留は、またもや豪と柔を使い分け、独自のスクリーンアウトで、高貴を翻弄し、力の強弱を使い分け、高貴の前に立った。
またもや、存在があるようで無い様な、感覚に戸惑った高貴は、後ろにバランスを崩し、体制が定かではなかった。
知留は残る四本の内、一本に狙いを定めようと、意識を集中させる。
しかし、一本目にネットと潜ったボールは音を立ててコートの下で弾む。
芙美のシュートは決まり、これで点数は、百九対百二二。
あれから加奈の曲がるパスと、芙美の連携で、ここまで点差を詰める事が出来た。
しかし、銅羅は一向にタイムアウトを取る気配がない。
それどころか、余裕を見せる様に、頬に笑みを浮かべている。
豪真や由紀子は腑に落ちなかった。
「どう見る?」
由紀子が隣にいる豪真に訝しい表情を銅羅に向けながら口にする。
「待ちがいなく何かありますね。今は流れがうちにありますが、何か嫌な胸騒ぎがします」
「あたしもだよ。おそらく第四クウォータで、何か仕掛けてくる気かもね」
二人は警戒していた。
銅羅の心の中で立てている計画を。
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