
第四十五章 影の正体 四話
しかし、女は不敵に微笑む。
「悪いわね。私は夫の願望を担ぎ上げ、サイレントトップアサシンとしてツエルブを鍛錬させ、邪魔者を排除する役に徹底していたわ。でも、それも飽きたの。そろそろ私が貴女のポジションを奪い、私がクリプバを導くわ。そう、強者こそがクリプバの象徴に相応しい」
どす黒い殺気と冷気を帯びた声音で、祥子の耳元で呟く女。
今すぐにでも殺されると察した祥子は、全身ブルブル震え、何と、失禁してしまった。
だが、女の毒牙の声はまだ終わらない。
「そうそう、それと貴女が企てていた爆破計画は無意味よ。だって、私が爆弾を処分したんですもの」
「はっ、はっ、はあっ!」
祥子は恐怖で過呼吸になってしまう。
そして、女が「さようなら。虚飾の信念と矜持を持ったペテン師さん」とあしらう様に言うと、祥子の首元で押さえていたダガーナイフを一気に引く。
「ぐっ、う、う」
耳障りな不快な声を上げ、頸動脈から血渋きを盛大に撒き散らし、絶命して横たわってしまった祥子。
無残な残骸を冷たい瞳で見下ろす女。
この女の正体は何者なのか?
そして、明人が祥子の死を知り、ツエルブの元に駆け付け、一番、祥子の死に何らかの手がかりを握っているはず、と思った明人だった。
話は戻り、ツエルブが、真のサイレントトップアサシンを既知していた事に、驚愕する明人の場面に戻る。
ツエルブに真のサイレントトップアサシンが居ると口にされ、驚愕していた明人。
「な、なあ。もしかして、銅羅聖にはまだ見えない闇があるんじゃないか?」
「ああ。こいつが口にしている、サイレントトップアサシンが、今回の事件に関与しているかもしれない」
善悟と輝美が訝しい瞳で語り合う中、明人は血相を変えたようにして尻餅して座っているツエルブの胸ぐらを掴む。
「教えろ! 誰だ⁉ 本物のサイレントトップアサシンは⁉ 近くに居るのか⁉」
目の色を変え、怒号の様に聞いてくる明人。
それを見たツエルブは不気味に笑い出す。
「フヒヘヘッヘ! こいつは傑作だ。まさか身近に居て、気付かないなんてなあ」
ツエルブの狂気じみた顔に、一気に血が全身から駆け巡るのが感じる明人。
そこで明人は一人の女性が脳裏に浮かんだ。
「気付いたか? そう、お前の母親、千川郁美だよ」
舐めまわす様な不快な笑みで口にするツエルブ。
それを聞いた明人は、確信した。
自分の身の回りで、それを思わされる過去を。
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