クリーチャープレイバスケットボール 第四十五章 影の正体 五話

第四十五章 影の正体 五話

 以前、明人は、キッチンに殺害時、使用したナイフを取り忘れた時、次の日の朝、自分の部屋に置かれていた事。

 もちろんその前の日の夜から、家の玄関や窓には鍵が施錠させられていたため、外部の者が、明人のナイフを部屋に置けるわけがない。

 だとしたら、自ずと容疑者は絞られる。

 理亜か郁美だ。

 当時理亜はまだ、義足を付けたばかりで体を動かせないため、除外される。

 だとすれば郁美しかいない。

 明人はそう確信した。

 狼狽える様にしながら、ツエルブの胸ぐらを掴んでいる手を放し、後ろにじりじりと後退し、しまいには膝を地面に付き、屈んだ体制になってしまう。

 どう処理していいか分からない。

 いくらアサシンとして凄腕でも、さすがに、家族にはこの事件には関わってほしくなかった明人。

 その望みが消えうせたかのように、愕然としてしまう。

 「……立てるか?」

 「……はい……」

 善悟が優しく明人に声をかけ、肩に手をやると、涙を滲ませながら立ち上がる明人。

 「とにかくお前には酷だと思うが、このまま千川郁美を逮捕する。協力してくれ」

 輝美が真剣な面持ちで明人の両肩をしっかり掴み、根気よく懇願すると、

明人は少し間を置き、悔しくて泣きたくなる思いを込め頷く。

 「よし! 行くぞ!」

 「……はい」

 輝美が意気込んでそう言うと、明人は案内のため同行する。

 「おい輝美! こいつどうする? それに俺、拳銃落としちまったし!」

 「こいつはどの道、助からないし、拳銃もこの暗闇の中から探すなんてしてたら、千川郁美が次にどんな行動をとるか分からない! 今はとにかく動けない奴は放って置いて、動ける凶悪犯を鎮圧させるのが先決だ!」

 「わあったよ!」

 輝美の力説に半ば自棄になる様に答える善悟。

 こうしてツエルブを残して、輝美たちの車で、明人の自宅に向かった。

 「……フヘハハハハ。馬鹿な奴らだぜ。なあ明人。お前は目の前で大切な存在が殺された時、どんな顔をするかなあ? 俺はこの時を待ってたんだ。奴が少しでも鈍り、矛をこの手にする時までなあ。お前が闇に落ちる瞬間も見逃せない。一石二鳥だぜ」

 一人血まみれで取り残されたツエルブは、狂った様な笑みで、不吉な言葉を独り言の様に呟く。

 そして、明人たちが自分の家に着くと、輝美が「俺たちは後から入る。お前は母親の注意を逸らしながら、取り乱させない様、対話でもしてくれ」

 「……はい」

 明人は今にでも泣きそうだった。

 だが、泣いて立ち止まるわけにはいかない。

 自分だけが罪を追うのは構わない。

 しかし、家族だけはそうあってほしくなかった。

 だからこそ、早く終わらせたかった。

 もうこれ以上、家族が血に染まる所は見たくないと言う思いで。

 明人は、ゆっくりと玄関の扉を開ける。

 ちゃんと明かりも付いており、少し離れた所から、調理する音が聞こえてくる。

 リズミカルに包丁で食材を切り、まな板に当たる音が。

 明人は、恐る恐る、奥の方に入っていく。

 心臓が今にでも背後から鷲掴みにされそうな思いで。

 「あら、帰ってきてたの」

 「う、うん。ただいま」

  背中を向けたまま、調理中の郁美は、振り返る事なく明人が帰宅していた事を気付き声をかける。

 明人はおどおどしながら返事をする。

 「そういえば聞いた? お隣さん引っ越すんだって。何でも旦那さんが単身赴任で別のアパートに住んで居て、その旦那さんが浮気した様な噂を聞いて、居ても立っても居られなくなって隣の奥さん、会いに行くそうよ。ほんと、世の中、人を信じるって事が出来なくなってきたわね。世知辛い世の中だわ」

 「ははっ、そうだね」

 郁美は淡々とご近所話をすると、明人は空笑いする。

 明人は、リビングの扉から既に入り、テーブルに手を付けていた。

 おちおちして座れるわけもない。

 何故なら、目の前には、網羅聖の真のトップが居るのだから。

 「母さん、今日の夕食は家で食べるの?」

 「ええ、そうよ。いつも豪真さんたちにお世話になってばかりじゃ悪いしね。でも安心なさい、ちゃんとお腹いっぱい食べられるから」

 少しでも違和感を感じさせない様、明人が話を振ると、郁美は何の警戒もなく少し嬉しそうに話す。

 「それにしても明人?」

 「ん? なに?」

 郁美が声のトーンも変わらず淡々と何かを聞いてくると、少し落ち着きを取り戻してきた明人が自然と言葉を返す。

 しかし。

 「随分、……物騒な友達を連れてきたわね」

 「……え?」

 郁美が何気ない会話でもしているかのように、聞いてくるものだから、明人は酷く動揺する。

 すると、リビングの扉の前には、郁美を取り押さえようと、郁美の背後に忍び寄っていた輝美たちが居た。

 輝美は銃口を郁美の足に向け、善悟は手錠を片手に取り押さえようとする体制に入る。

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