
第四十六章 縮まらない差 二話
イリアスがボールを手にすると、高速ドリブルで芙美を翻弄し、切り崩すし、フリースローラインにまで近付き、明鏡止水、抜刀、二の太刀でシュートを決めようとした。
そこで高貴がヘルプで向かおうとしたが、高貴は横切られ、点数を決められてしまう。
これで点数は百九対百二十四。
点数が詰められてきたとはいえ、やはり油断できない状況。
高貴は、飛翔のエアコネクトでパスしたボールを奪われる事を恐れ、手渡で芙美にパスを出す。
すかさず乱歩・気流で五人の分身を生み出し、敵陣のコートにドリブルして向かって行く。
芙美同士を交差させたりして、イリアスに分析させない様に。
すると、飛翔は「残りの時間を考えればそろそろか」と独り言の様に呟くと、何と、先程まで片手で指を鳴らしていていたはずなのに、今度は両手で指を鳴らす構えを取る。
それには芙美も一驚する。
「まさか、倍の速度で、あのエクストラロードを使う気か?」
豪真も思わず目を剥く。
飛翔は、指を鳴らす際、上から下に叩きつける様にして、二本の指を鳴らす。
パン! パン!
すると、同時に二人の芙美の幻影の手にしているボールが消え、幻影の芙美も消える。
「くっ」
芙美はすかさず乱歩気流を発動させ、再び幻影を生み出そうとするが、飛翔の倍の速度になった指パッチンに追いつけず、すぐに残り三人となった内、二人の芙美がエアコネクトの餌食に遭う。
そこでエアコネクトで弾かれたボールが本物だった時、すぐに賀古が弾かれた本物のボールを手にする。
「破られた⁉」
エノアが心配そうにしてみながら驚く。
賀古はボールを手にすると、芙美たちのリングに向かってドリブルして行く。
ハーフラインに差し掛かった時、智古が賀古の前に出る。
ディフェンスの構えで待ち受けていると、賀古はフロントチェンジで左手にボールを持ち替えると、ロールターンしてきた。
右にも警戒していた智古は、ロールターンで右から抜こうとして来た賀古の前に再び出る。
しかし、賀古は右手にしていたはずのボールを手にしてなかった。
ボールはと言うと、左サイドに居るイリアスがいつの間にか手にしていた。
「うそ! あの十二番の選手、パスした素振りもないのに。なんでロールターンして後ろを向いている時に、ボールが左サイドに移動したの?」
「あの五番の選手が、十二番がロールターンで後ろを向いた瞬間、指を鳴らしていた。その時に、ボールは左サイドに弾かれ、あの子にパスが渡ったんだよ」
聖加が信じられない物でも見ているかのようなリアクションを取ると、冷静に口にする由紀子。
エアコネクトを敵だけでなく、味方にも使って攪乱してくる飛翔は、コモンクラスのエクストラロードとして認識するのは誤りだ、と、この時の豪真はそう痛感した。
コモンだろうとエピックであろうと、エクストラロードはエクストラロード。
決して楽観視してはならない。
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