クリーチャープレイバスケットボール 第五十章 勝利の鍵 六話

第五十章 勝利の鍵 六話

 順子が前に出ると、知留は、またもや強弱をつけた圧をかけてくる。

 触れているはずなのに、存在がない様に思えたかと思いきや、力強く押してくる知留。

 しかも、パターンもその都度、変わり、いつ強弱を使い分けてくるスクリーンアウトか分からなかった順子。

 「くそ!」

 対応できなかった順子は悔しさを吐き出した。

 知留は順子の前に出ると、両腕を輪っかの様に後ろに広げ、順子を身動きさせない。

 残りタイムは三十秒を切る。

 こんな時に点を一点でも取られれば、理亜たちに取って致命的な大打撃。

 だからこそ、順子は死に物狂いだった。

 そこで、順子はある光景を思い出す。

 まるで走馬灯の様なビジョン。

 それは、先程の知留のプレーだった。

 それを思い出した順子はニヤリと笑う。

 順子はジャンプした。

 知留は順子がジャンプしても、ボールには触れられない事を知っていた。

 順子が居たのは、リングより手前。

 ノーチャージセミサークルの輪にすら入ってない。

 そのはずなのに、順子がジャンプして必死になって手を伸ばした先は、リングの輪だった。

 輪を掴んだ順子は、力いっぱい、自分自身に引き付ける様に引くと、グイっと、体が嫌でもリングの真上の位置にまで移動する。

 輪を掴みながら、イリアスが先程、ムーンを描くシュートを、リングに入る前に横に叩き出した。

 そのプレーに知留は驚愕する。

 そして、右横にボールを叩き出した順子。

 ルーズボールとなり、飛翔と加奈が追いかける。

 ラインを超えたボールをジャンプして内側のコートに弾いたのは飛翔だった。

 そのボールを代野が手にすると、無酸素運動でもしているかのようにゴール下にまでドリブルして走り出す。

 芙美は乱歩・気流で代野の前に三人の幻影を生み出す。

 本物の芙美と入れ混じり、代野のボールをカットしようとした芙美。

 もう、ディフェンスなどと言う甘い事は言ってられなかった。

 残り時間は二十秒を切る。

 芙美は代野が立ち止まると思っていた。

 しかし、確立三分の一にかけた代野は、左の芙美の存在を無視して突っ込む。

 完全にぶつかり、ファールを取られる抜き方。

 だが代野がぶつかった芙美は幻影で、霧散するように一人の芙美の幻影が消える。

 銅羅は立ち上がり「代野さん!」と熱の籠った応援をする。

 ゴール下で代野を待ち構えていたのは順子。

 そこで、知留が順子にスクリーンをかけるが、スタミナが限界を超えているせいか、上手く、強弱の付けるスクリーンを掛けられなかった。

 どちらかと言うと、力は弱く、順子は身体を張って強引に優位なポジションを取る。

 代野はダンクで決めようと、ジャンプした。

 順子も呼応するかのようにジャンプする。

 「「うおおおおおぉーー!」」

 空中で激突する代野と順子。

 代野の手にしているボールを叩き弾こうと、順子の片手もボールに押し広げられていた。

 代野はパワーフォワードのため、パワー型だったが、順子も、高貴と智古二人係でも抑えるのが苦しかったとされるパワータイプのセンター。

 そんな二人が今まさに、パワー勝負をしている。

 豪真と銅羅はどちらに軍配があるかはもう予想は出来ない。

 もはや気力だけでの勝負に近い、両チーム。

 代野が徐々に押されかけていた。

 空中で斜め後ろに下がっていく代野。

 するとそこに、別の人物の手が代野の手に重なる。

 「代野ちゃん!」

 「知留ちゃん⁉」

 代野に加勢にきた知留。

 すると今度は理亜が順子に加勢する。

 「わりい!」

 「気にしない!」

 覇気のある声で結束する理亜と順子。

 だがこれで終わりではない。

 代野と知留、そこにイリアスまで混じってきた。

 「なんだか楽しそうですね」

 少し笑いながらも、プレーには一切の妥協がないと思えるくらい、ごり押しで来たイリアス。

 三対二。

 そろそろ滞空時間が切れたかのように少しづつ落ち始める。

 「まずい!」

 銅羅はここで一本取らないと、本当に勝機を失うと思ってしまう。

 「見てられないな」

 どこからか、冷めたような声音でぼそりと呟いたのは飛翔だった。

 すると、居合術の構えでフリースローラインにまで向かうと、「明鏡止水、抜刀、三の太刀!」と言って、刀を抜く様に一刀に振るう。

 その手はどう考えてもボールに届く距離ではなかった。

  しかし、どこからか、大砲の様な風圧が、ドン! イリアスたちの手にしているボールに叩きつけられると、風圧の力も合わさり、代野たちは押し勝ち、見事、リングの中にダンクで決める。

 「まさか、剣圧⁉ いや、どちらかと言うと、空砲の様な物を、物理的に引き起こし、剣を振るうようにして空砲を打ち出し、四番たちの後押しになった」

 「なるほど。あの五番は本当に剣術の道を究めた武士と言って良いかもね」

 豪真と由紀子は脱帽していた。

 まさか、この土壇場で、まだ武器を隠し持っていたとは。

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