クリーチャープレイバスケットボール 第五十章 勝利の鍵 八話

第五十章 勝利の鍵 八話

 そんな中、やはり理亜だけ、表情が暗かった。

 話は少し遡り、明人が輝美たちの説得に耳を貸さず、飛び出した場面。

 明人は理亜たちが試合している砂川の地下鉄付近にまで走っていた。

 地下鉄に着くと、急いで地下に続く階段を降り、豪真たちがした、指紋認証をすると、横にスライドしていく様に現れた第二の階段を進んでいく。

 輝美たちも追いつき、階段が切り替わる前に中に入っていく。

 入った先は、ホールの様な場所で、受付のお姉さんが二人、立っていた。

 受付のお姉さん方は、明人たちの逼迫した表情をみて、ただ事ではないと判断し、明人たちの近付いていく。

 「お客さ――! お客様! その怪我は⁉ 困ります! その様な出血多量の状態で、観客席に入られては!」

 親切丁寧に客を迎え入れようとしたその時、明人の後ろから走ってくる輝美と善悟の怪我の具合を見て、狼狽する受付のお姉さん。

 そんな静止させようとして来た、受付のお姉さんを無視して、観客席に続く両開きの金箔が塗された扉を勢い良く開けた明人。

 入った途端、明人は乱れる呼吸などお構いなしに、直ぐにスタンドの中央付近にまで急いで行く。

 点数と残り時間を見て、明人はすぐに理亜たちが危機的状況に居ると判断する。

 中央付近にまで行くと理亜を見つけた明人は「姉ちゃん」と儚げな声でぼそりと呟く。

 そして、正に、加奈が理亜にパスを出し、イリアスが強くボールを弾いて、ボールが観客席に飛び込んだ時だった。

 そのボールは事もあろう事か、明人の眼前だった。

 明人は素早く、コートの中に隠し持っていた拳銃を抜く。

 「よせ! 明人!」

 その目と鼻の先に輝美たちが片腕を伸ばし、鬼気迫った様子で明人を呼び止めようとする。

 「姉ちゃん……後は頼んだよ」

 誰かに何かを託すかのように、愛情と優しさを込めた、ゴム弾を眼前に迫りくるボールに打ち込む明人。

 発砲音が鳴っても、観客たちの歓声でかき消されてしまう。

 そこで明人が撃った直後、理亜と目が合った明人。

 その時の理亜は、驚きすぎて、一瞬、バスケをしている事を忘れてしまう。

 その驚きは、明人が拳銃を手にしていた事もそうだが、明人がクリプバの存在を認知していた事。

 そして、撃たれたボールは、イリアスたちのリングに向かっていき、理亜はハーフラインから飛び、アリウープ版のエンド・オブ・ジャスティスを決めた。

 「明人!」

 明人が撃った直後、明人が銃を手にしている手首を掴み取ると、輝美たちはコートの選手や、ベンチに居るメンバーを凝視する。

 その時の輝美たちは生きた心地がしなかった。

 もしかしたら、誰かが血塗れで倒れているのかと思うと、しょうがなかった。

 「なんか、無事みたいだな」

 善悟が冷や汗を流しながら、口にする。

 そこで、輝美は明人が手にしている銃を強引に奪う。

 明人は何の抵抗もなく、むしろ、虚無感でも感じているかの様に、ただ真っ直ぐ、バックボードの上で決めポーズを取っている理亜を見つめる。

 「これは、ゴム弾?」

 「はい?」

 輝美と善悟が訝しい目で、残りの弾が入っている弾を調べ、釈然としない様子になる。

 「輝美さん、善悟さん。これで僕に思い残すことはありません」

 誠実そうな真剣な瞳で輝美たちの前に出る明人は両腕を差し出す。

 それを目の当たりにした輝美たちは何のことか分からなかったが、職務を全うするため、無言で、険しい表情で、明人の両腕の手首に手錠をかける。

 「さて、後は」

 「ああ。銅羅だけだ」

 輝美と善悟は眉を顰め、ベンチに居る銅羅に目を向ける。

 手を組み額に当て俯いている銅羅。

 遥が優しく銅羅の背中を摩る。

 すると、銅羅は憂いた瞳で「少し席を外しますね」と遥やアサルトハイドチームのベンチメンバーにそう告げ、立ち上がる。

 去ろうとする際、イリアスたちが銅羅の元に駆け寄る。

 「すいません監督。私たちの力不足で、敗北してしまい」

 どこか悔しがりながら口にするイリアス。

 すると銅羅は目頭を少し抑えて放し、鼻を啜ってイリアスたちに身体を向ける。

「皆さんは良くやってくれました。情熱、優しさ、そして悲しみ。全てにおいて、これ以上の対価を払ったのは皆様だけです。私はこの試合を見せていただいただけで、心残りはありません。なのでこの先は、皆さんの思うがままに、謳歌してください。私から教えられることはもう何もありません。どうか、息災で」

 言い終わると、選手専用の出入り口に行こうと、背中を見せ歩き出す銅羅。

 「待ってください監督! 次はもう誰にも負けません! なので私たちを見捨てないでください!」

 自分たちは敗北したからこそ、捨て台詞の様な物を吐かれ、銅羅に突き放された、と思い込んでしまった知留は、必死な形相で飛び留める。

 「違いますよ、知留さん。私が皆さんを不要と思ったのではなく、皆さんに取って私が不要なのです。この後は、豪真さんを頼ってください。そして、これからもバスケを愛してください」

 優しさを込めた顔が、知留他に向けられると、何人かの選手たちが泣いてしまう。

 銅羅は軽く頭を下げると、最後に豪真と目が合い、銅羅は豪真に深々と頭を下げる。

 そして出入り口に向かって再び歩き出す銅羅。

コメント

タイトルとURLをコピーしました