
第四十九章 二つの愛 一話
理亜たちが正に激戦の最中、明人たちは……。
ドカッ!
「ぐっ!」
背後を向きながら料理をしていた郁美に迫ろうとしていた善悟だったが、強烈な足蹴りを食らい、輝美を巻き込み横転する。
すぐに輝美からどけようと、善悟は立ち上がろうとするが、郁美が善悟の腹を踏みつけ、輝美ごと押しつぶす勢いで踏み続ける。
「ぐっ、くっ」
輝美と善悟は苦しい様子を見せると、明人は顔が真っ青になってしまう。
「残念よ。明人、まさか、実の息子を手にかけなきゃいけないなんて」
郁美は涙を流しながらも、その明人に向けられる目には、どす黒い殺意があった。
明人は息を呑む間もなく、郁美が明人の懐に入り込む。
包丁を片手に、鋭い突きを明人の顔面に目掛けて振ってくる。
それをギリギリで躱す明人。
しかし、郁美は水面蹴りで明人の足を払う様に蹴り上げる。
まだ動揺が残り、本来の力を発揮できなかった明人は、それを食らってしまう。
尻餅をつく様にして転んだ明人に、郁美は片手でナイフをしっかり握り、明人の心臓目掛けて振り下ろしてきた。
体制が崩れ、すぐに身動きが出来なくなった明人は、絶体絶命のピンチに陥る。
そこへ、善悟が身を丸め、郁美の背中をタックルしてきた。
ぶつかった郁美は、受け身でも取るかのように空中で一回転しながら床に静かに足を着ける。
そこへ、輝美が発砲を開始した。
銃声が鳴る瞬間に、郁美はテーブルをひっくり返し、自分の正面に向け設置する。
打たれた弾は、テーブルを貫通するが、郁美は息を顰める様にして、肩や横腹の付近を弾が貫通する。
獲物を追い詰める様な狩猟の目をする郁美。
弾切れを待ち、功を期したと思った郁美は、テーブルを輝美たちの居る前方に強く蹴る。
そのテーブルは明人たちにぶつかり、まるで、車が突っ込んできた衝撃を受けた。
事故レベルの破壊力に、苦渋の表情を浮かべながら、何とか体制を戻そうとする。
しかし、郁美は、そのテーブルを横に蹴り上げ、明人たちは姿を露わにせざるおえなかった。
郁美は、最初に目に入った善悟に向け、包丁を横一文字に振るう。
「ぐっ!」
その切っ先は、善悟の頬をえぐる様に斬ってしまう。
「善悟!」
「くそっ!」
輝美が一驚する中、明人は、このままではまずい、と思い、がむしゃらに郁美に突っ込む。
それを冷徹な目で回し蹴りする郁美。
顔面を強打されたような衝撃を感じながら、明人は部屋の横隅にまで蹴り飛ばされ、壁に激突する。
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