
第四十八章 麻痺による進行 四話
嘗て、ワンオーワンを挑まれ敗北した時の光景が、嫌でも脳裏を過る芙美。
「理亜よ。この先、我は乱歩・気流をアシストに切り替える。サポートは任せ、お主は果敢に攻めるのじゃ」
「……芙美ちゃん。うん、分かった!」
芙美は落ち込んではいなかった。気持ちを切り替え、ただチームが勝てる確立を少しでも上げようと、どう貢献するかをすぐに考えていたのだ。
その言葉に、芙美の覚悟を感じ取った理亜は、力強く頷く。
「よし。こうなったらとことんやるしかない。四番には、ダブルチームを付けて、加奈は六番をマーク。理亜はそれ以外のメンバーをバーチャルディメンションで自意識を退化させ、オフェンスやディフェンスを妨害する」
「「はい!」」
豪真が締めにと口にすると、一同は覇気のある声で答える。
「それにしても由紀子さん。俺達には少し、非協力的だったのに、なんで今になってアドバイスしてくれるんだ?」
奏根が残り休憩時間を体力回復に回しながらも、素朴な疑問を口にする。
「なに、もう贔屓するとかしないとかって言うレベルじゃないからね。このままいけば、あんたたち、負けるよ」
「え?」
由紀子が現実的な話を真面目な顔ですると、奏根は意識を手放した見たいに、脳が情報処理できない様に呆気に取られた。
一方、アサルトハイドチームは。
「皆さん。このまま行けば、勝利の金糸の糸を掴み取る事が出来ます。ですがまだ楽観視できないのも事実です。おそらく向こうは、イリアスさんと代野さんのどちらかに、ダブルチームを付けてくるはずです。なので、飛翔さんと賀古さん、知留さんは千川さんのエクストラロードを警戒しながら、二人のサポートを」
「「はい!」」
銅羅は豪真の策を読んでいた。
これは非常にまずい状況だ。
タイムアウトが終わり、試合は再開される。
芙美にパスが回ると、芙美は乱歩・気流で六人の幻影を生み出し、時間差をかけてイリアスたちのコートにドリブルして向かって行く。
イリアスに奏根と順子がダブルチームに付き、代野には加奈がマークに付いている。
「見くびられたものだ」
そこで、飛翔が明鏡止水、抜刀で、次々と芙美の幻影の手にしているボールをかき消していく。
芙美はすかさず幻影を生み出すが、イリアスは斬り捨てていく見たいにバッタバッタと芙美の幻影が手にしているボールを消していく。
さすがにまずい、と思った芙美は、ハーフライン手前で、パスを受け取りに来た理亜にパスを出す。
すると、芙美は幻影を使い、飛翔と賀古、知留に二人ずつしてスクリーンをかける。
どれが本物の芙美か分からず安易に突破できない飛翔たち。
理亜はバーチャルディメンションを周囲に展開させ、味方だけを対象にせず、他の選手たちの認知を退化させる。
それを知っていた飛翔と賀古、知留は迂闊に理亜に近付けないだけでなく、芙美がスクリーンをかけている。
おそらくこの三人にボールを奪われる心配はなくなったが、問題のなのは、イリアスと代野。
代野は先程以上に酔っていて、加奈は近くに居るだけで、鼻が曲がりそうだった。
匂いとの戦いもある中、代野は左右にフラフラと振り子の様な動きになる。
それを目で追い、向いた方向に反復横跳びし、スクリーンをかける加奈。
右に重心を強く向けた代野に対し、加奈も強く右斜め前に出る。
すると、代野はそこで何かに躓くような動作をしたかと思いきや、そこに目と体が行った加奈を置いてきぼりにするかの様に、トリッキーな動きで左に素早く移動し、加奈を抜く代野。
そこで、イリアスが頬に笑みを浮かべる。
「申し訳ありませんが、今の私にはスクリーンなど無意味です」
注意喚起でもするかの様に、淡々と言うと、イリアスは姿を消したと同時に、ビリッと音をさせ、奏根と順子に電流を流す。
痛みで体制が崩れた奏根と順子。
針に糸を通すかのように、奏根と順子の間を、落雷でも落ちたかの様に抜けるイリアス。
ジグザクの線を残しながら、落雷と化したイリアスが、理亜の背後に向かって行く。
理亜は、直感で、来る! と思い、スリーポイントラインから跳躍する。
エンド・オブ・ジャスティスを狙っていた。
しかし、イリアスが理亜に近付いた途端、電流を流し動きを鈍らせると、代野がムーンサルトの跳躍で空中で理亜の手にしているボールを蹴って奪った。
代野は空中でそのボールを誰も居ない左サイドに向け投げつける。
そこへイリアスが落雷と化したままボールを掴み、ボールも電流化させ、ジグザグの線をコートの上で描く様にして、ダンクを決めてしまう。
理亜は、取られたと認識した時には、既にイリアスはダンクを決めていた。
あまりにも早く強すぎるイリアスのエクストラロード。
まるで打つ手がないような、絶望に染まりかける奏根たち。
芙美も悔しさを通り越し、思わず両目を強く瞑り、奥歯を噛みしめ、泣きそうな気分になってきた。
このままでは間違いなく負けてしまう。
それ程の力量。
理亜たちは痛感させられかけていた。
敗北と言う、二文字に。
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