
第五十章 勝利の鍵 四話
先程と違い、ガス欠となって、勝利を手放そうとして来た彼女らはもう居ない。
お祭りムードだった豪真たちも、身が引き締まり、再び勝てる様、祈りだす。
「これは分からなくなったかもね」
由紀子がぼやく様にしかめっ面でそう言うと、イリアスたちのボールから始まる。
「勝てーーー!」
エンジンをかけるかのように、木佐が激しい声援を送ると、イリアスたちは先程まで脳から体全体にかけられていた、理亜のアルティメットロードの呪縛から解放されたかのように動きを変えた。
減ったスタミナが戻るわけでもなく、ただ残り、微塵も無い様なスタミナで勝負に出る。
「ちょっ! 邪魔なんだけど!」
木佐の後ろから智古たちがブーイングを言っても、まるでブレない木佐だった。
理亜はすかさず、アルティメットロードを発動する。
しかし、何故かは知らないが、イリアスたちからこれ以上、体力を奪えなかった。
それだけでなく、バーチャルディメンションも通用しない。
「――もしかしたら」
「どうしたの~。監督?」
それを目の当たりにした銅羅が、一驚しながら何かを頭の中で整理していた。
「もしかしたらですが、木佐さんのジャスティス・マイ・フレンドで、千川さんの異能を妨害されてるのかもしれません」
「と言うと?」
「つまり、洗脳や暗示のような千川さんの能力に対し、その洗脳や暗示のスペシャリストである、木佐さんの異能が千川さんの異能を上回り、木佐さんの「勝て」と言う洗脳の方が勝ってる。だから千川さんの異能はレベルが上の木佐さんの異能におしまけてしまった、としか」
「うそ⁉ そんな事が……」
動揺しながら語る銅羅。
無理もない。
まさか、身近で、誰よりもセンスがなかった木佐が、理亜に取って一番の障害になっていたのだから。
飛翔は倒れる寸前の体力で、明鏡止水、抜刀、二の太刀で、フリースローラインからシュートを決めようとした。
しかし、マッチアップの加奈が、飛翔にへばりつくような徹底したディフェンスをし、振り切る体力がなかった飛翔は、止むを得なく、左サイドに居る賀古にパスを出す。
その間、木佐は「勝て―! 勝て―!」と観客を凌駕する声音でエクストラロードを発動し続ける。
「ほんと邪魔!ほんと邪魔!」
智古たちは応援したくても、腕を組んで仁王立ちしている木佐に苦情を入れるしかなかった。
常に、理亜のエクストラロードとアルティメットロードを上書きし、理亜に異能を使わせないと言う、木佐の戦術。
しかし、木佐は別に計算して、ジャスティス・マイ・フレンドを使っているわけじゃない。
ただがむしゃらだった。
買って欲しいと言う願いを込め、味方に『勝て』と言う暗示を念じ続け口にする。
賀古が奏根を抜こうと、右にフェイントをかけると、判断力が鈍った奏根は、思わずのってしまう。
すかさず、賀古は左から抜いた。
フリースローラインからジャンプシュートをした賀古。
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