クリーチャープレイバスケットボール 第五十章 勝利の鍵 三話

第五十章 勝利の鍵 三話

 「ねえ監督。これってどう見ても危機的状況じゃないかしら~。タイムアウト取った方がいいんじゃない?」

 遥がうっとりしながら片手で頬を撫でながら小悪魔的に言う。

 どれだけ焦っても、艶笑は一切消えない遥。

 そんな遥の言葉に、銅羅は苦渋の表情で額から冷や汗を流す一方だった。

 「いえ、タイムアウトを取っても無意味です。おそらくあのアルティメットロードは、相手の体力を大幅に奪うのです」

 「体力を奪う?」

 「ええ。ご覧になってください。千川さんは先程まで汗まみれだったはずが、汗を一滴も流さず、呼吸も落ち着いている。これは体力を奪い、自分の物にしている証拠です、現にイリアスさんたちが先程以上に呼吸を乱している」

 目の前に死神が迫ってきているかのような恐怖感を感じていた銅羅は、声が震えていた。

 他のアサルトハイドチームのベンチメンバーも、先程まで勝利ムードだったのが一変して、氷山一帯の地に足を踏み込んだ様な凍った表情になってしまう。

 相手がパスを出す前に、アルティメットロードを発動させ、弱り切ったパスをカットし、すぐにシュートを打つ理亜。

 この一連のプレーが、残り一分十秒になるまで続けた。

 点数は百六十三対百六十七。

 豪真と由紀子は、理亜が得点を決める度に、奇怪なダンスを披露する。

 それを目にした銅羅は、カチンときていたが、悔しそうにして見守るしかなかった。

 「どうにかして、一点ほど取ってくれれば、このまま逃げ切る事が可能かもしれませんが」

 焦慮しながら祈り続ける銅羅。

 残り一分を切った、その時。

 「何をしている! お前ら!」

 どこからか聞き覚えのある声が、大熱狂する観客たちの声を押しのける様に聞こえてきたイリアスたち。

 その方向に目を向けてみると、なんと、智古たちのベンチの前で、いつの間にか仁王立ちし、腕を組み、威風堂々としていた木佐の姿があった。

 「え、木佐ちゃん?」

  賀古は思わず驚愕する。

 賀古だけでなく、イリアスたちも驚きながら、木佐に目を向け続ける。

 理亜も思わず足が止まってしまう。

 「私が居ないからと言って、その体たらくは何だ! 私がいくら、容姿鍛錬、頭脳明晰、全世界を笑いの渦に変える天使が脱落したからと言って、お前たちが負けて良い理由にはならない! 私の側近に相応しい活躍を見せて見よ! そう、勝利で私の周りを彩らせてみよ!」

 首から掲げているギプスなどどこかに投げ捨て、痛いのを堪えて、腕を組んでいた木佐は、堂々と口にした。

 何にも憚れない木佐のエール。

 木佐がどう言う人間かを理解していたアサルトハイドチームは、絶望しきっていた表情から一変して、どこか可笑しく思い、思わず笑ってしまう。

 「やれやれ、木佐のお馬鹿っぷりのせいで、酔いも冷めちゃったよ」

 くたびれた様子で大きな溜息を吐く代野。

 「笑いの渦に変えるか、後者だけは言い得て妙だな。だが、乗った。木佐に後で小言を言われるのが、何よりの屈辱だからな」

 おいたした子供を笑って見守る様な面持ちになる飛翔。

 「そうだね。私たちで木佐ちゃんに目にもの見せてあげよう!」

 元気はつらつとなった賀古。

 「こうなれば遠洋の頂まで付き合いますよ。私はキャプテンですし、せめて木佐さんに見せられて恥ずかしくない自分で居たいです」

 イリアスも、フフフ、と笑いながら、木佐にだけは見くびられたくない、と言う思いで、やる気に火が付いた。

 「行くか」

 飛翔が冷静に口にすると、イリアスたちは力強く頷く。

 その目には、ハッキリとした熱が込められていた。

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