
第五十章 勝利の鍵 二話
「千川さん。貴女がたはよく戦いました。クリプバ初出場にして決勝戦にまで上り詰めた。それだけでも快挙ですよ。ですので、胸を張って諦めてください」
涼しげな様子で喋るイリアスに、何かに火が付いた理亜。
それは、心臓から? 脳から? もしくはペナルトギアからか?
違う。
自分でも分からないどこからか伝わる熱を受け入れた理亜。
「確かにここまでくると、むしろ笑える。諦めた方がら惨めな思いもしないで楽かも。でもね……」
理亜は友人に図星を付かれて、潔く、本音を語ろうとしているかの様に、何にもブレてはいない様子だった。
言の葉の最後には、イリアスはある違和感を感じ取る。
「うっ」
「でもね。ここで諦めたら、後でもっと惨めに思える。だからこそ、掴み取れなくても足掻いて悔いを残したくない。傷跡を残す。スポーツってそうでしょ?」
イリアスが、胸を押さえ、苦しそうな様子になると、理亜はその横を散歩でもするかのように横切る。
「ごめんね」
「えっ、はあ、はあ!」
なんと、理亜は軽く走ってボールを手にしている賀古の元にまで近付くと、自分の所有物を返してもらおうか? 見たいなノリで口にすると、鳩が豆鉄砲を食ったような表情で呆けた賀古。
しかし、その直後、賀古もまた胸を押さえ、苦しそうな表情を見せる。
理亜は何事もなかったかのようにボールを手にすると、スリーポイントシュートを打つ。
アサルトハイドチームのスタメンメンバーたちは、胸を押さえ、苦しそうにして立ち止まる事しか出来なかった。
理亜のシュートは決まる。
銅羅や豪真たちも目を剥く事しか出来なかった。
「あれは、もしや」
「ああ。間違いないよ。……アルティメットロードだ」
豪真は信じられない物でも見ているかのように慄いていると、由紀子がニヤリと笑みを浮かべる。
「アルティメットロード?」
聖加だけでなく、シャルトエキゾチックチームのベンチメンバー全員が首を傾げる。
「そうだ。アルティメットロードは、エクストラロ―ドの更に上のスキルだ。過去に一人として、アルティメットロードを覚醒した選手は居ない。アルティメットロードは、臨界点が突破したペナルトギアに、未知なる負荷をかけ、更に異質な物へと変化する。それは今の科学や医学では解読できない作用や効果がだ」
「アルティメットロードは正に未知そのもの。誰の哲学や理論を用いても、どれだけ探求しても、その領域に近付ける人間は今まで一人も居なかった。けど、まさかこんな所でお目に書かれるなんてね」
豪真が少しテンパりながら説明すると、由紀子は顎を摘まみ、笑みが途切れない。
ただ、二人の説明を聞いても珍紛漢紛だった智古たちは、訝しい目を理亜に向ける。
「ねえ監督、由紀子さん。つまりアルティメットロードって凄いじゃん?」
静香が怪訝な面持ちを豪真たちに向ける。
「凄いなんてもんじゃない。見ての通り、エクストラローの更に上のスキルを手にしている。あれが紛れもない証拠だ」
俄かには信じられないと言う様子で、理亜のプレーに目を見張る豪真たち。
いつの間にか一分が過ぎ、点数は百三十二対百六十七と一気に点差を詰め始めてきた。
アサルトハイドチームは文字通り虫の息。
立っているのがやっとだった。
理亜の第二の異能。それは……。
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