
第四十七章 裏にはないルール 六話
一方、豪真たちは。
「あれは間違いなく酒を飲んでいるな」
「あのう、監督。何故お酒を飲むと、あんなにも卓越された動きになるんですか?」
豪真が訝しい瞳で再確認すると、高貴が素朴な疑問を口にする。
「お酒は君たちが既知している通り、アルコールが入っている。そのアルコールは血行を良くし、血液に入ったアルコールは循環され脳に届く。脳に届いたアルコールは神経細胞に作用させ麻痺させる。麻痺された脳は恐怖や理性の感情を一時的に忘れさせ、万能感や優越感を引き起こす。だからこそ、彼女は、プレッシャーや恐怖がクリアされ、高揚感の作用でバスケをしている。基礎が出来ていて、既にプロ並みの動きも見せる。酔拳の様に酔えば酔う程、上手くなる、と言った所か」
「「へえ~」」
顎を摘まみ思案顔で淡々と口にしていく豪真に、納得がいったみたいだが、どこか上の空の様な口ぶりになる智古たち。
「へえ~、じゃないよ。これはまずいよ。芙美の幻影に恐怖せず。本物だろうと偽物だろうとお構いなしに抜いてくる。シュートも相手何て人形程度にしか思ってない。あの六番は今、誰もコートに居るなんて思っちゃいなから、好き勝手にプレーができる、て感じに私には見えるね」
眉を顰める由紀子。
智古たちは、由紀子の言っている意味を何となくだが理解した。
どう考えても、あの中で、誰よりも負けを恐れず、誰よりも勝つ気でいる。
それは、由紀子の言葉で、理屈では分からなくても、直感的な物で理解し始める智古たち。
理亜たちも、それを察しているように警戒する面持ちになる。
「理亜よ。頼むぞ」
「うん、ここからだよ」
芙美が理亜にパスを出し、理亜は元気はつらつとした表情でボールを受け取る。
「千川さん。今回はチームプレイですが、貴女にその気はありますか?」
イリアスがディフェンスの構えで、理亜を煽る。
「どうだろうね。でも一つだけハッキリしている事はあるよ」
理亜はドリブルでイリアスを警戒しながら、自然と言葉を返す。
「と、言いますと?」
「私たちが勝つって事」
力強く口にした理亜は、エクストラロード、バーチャルディメンションを発動する。
すると、イリアスは心ここにあらずと言った感じで呆然と、ただ立っている事しか出来ず、理亜はあっさりと抜いてしまう。
「くっ」
理亜がエクストラロードを行使した事に気付いた飛翔と賀古は、理亜にダブルディフェンスで着こうとした。
だが、飛翔と賀古も思考能力が低下でも、しているかのように、まるで赤ん坊が初めて二足歩行できた当時にまで振り返る様な心境になってしまう。
「よしっ!」
豪真は、確実に点が取れる事を確信して思わずガッツポーズを取る。
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