
第四十七章 裏にはないルール 五話
振り子の様に思えた芙美だったが、構わず手をボールに伸ばす。
「せっかくいい気分なのにさ」
呂律が少し回らない様に口にする代野。
すると、いつの間にか左サイドから抜かれた芙美。
しかも幻影か本物かも意識せず、強引気味だったドリブル。
思わず目を剥く豪真。
代野はフラフラとしたドリブルで、ゴール下にまで近付いてきた。
順子はパスかシュートかの二択に迫られる。
しかし、順子も代野の異変にすぐに気づいたため、真面なプレーをしなくなっている事に気付くと、間違いなく自分でシュートを決めようとしてくるはず、と踏んだ。
代野はフリースローラインから跳躍する。
順子も知留のスクリーンを躱し、前に出るとジャンプする。
代野がダンクの構えのままリングに向かってくると、順子の手と重なるその時。
代野はボールを引っ込め、足の股にボールを通し、右手に持ち替えると、順子の手を躱し、時間差を付けて右手でダンクを決めた。
ダブルクラッチだが、どこか斬新な動きを見せていた代野。
「こうも酷く吐きたい気分なんて、勝って飲み直しだな。ひっく」
代野は頬を赤らめた状態で、まるで酔っている見たいな感じがハッキリと見受けられた理亜たち。
「なあ、どう見ても酔ってるよな?」
「うむ。かなりアルコールの匂いがした。あの六番は間違いなく飲酒しておる」
奏根と芙美が確認すると、理亜たちにその事を口にする。
もちろん顎が外れるんじゃないかってぐらい、驚く理亜たち。
「試合中にお酒⁉ 良いのそんな事して⁉」
「いえ、クリプバの規則の欄には、お酒を飲んでは駄目と言う項目はありませんでした」
信じられない事に驚き続ける理亜。
そこで、バスケの注意事項やルールブックを一通り読んでいた加奈が補足説明する。
それを見ていた銅羅はニヤリと笑う。
「代野さんのスキルはエクストラロードではありませんが、エクストラロードに匹敵する代物です。バッ酔。酔拳のように、酔えば酔う程、複雑で斬新な動きになり、誰よりも物怖じしない選手になるんです」
「お酒の力はやっぱり偉大ねえ~。私の業界でもやる前に飲めば、大抵の事は受け入れられるし、プレーの幅も広がるわあ~」
銅羅が涼し気に解説するその横で、バスケとは関係のない話で、興奮し始める遥。
「ま、まあ、その話はさておき、これで代野さんのスペックは底上げされました。更にイリアスさんの秘技で、ここから突き放します」
横に居る遥の話でドン引きしていた銅羅は、気持ちを入れ替え、優越感に浸る様に口にする。
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