
第四十七章 裏にはないルール 四話
奏根は、まずい、と思い、審判のお兄さんに、代野の容態を説明し、レフリータイムを取ってもらおうと、動き出す。
だが。
「あ、大丈夫、大丈夫。今はこれが正常だから」
まるで近所のお母さんが、顔馴染みの店主に挨拶する様なノリで口にすると、奏根は「は、はあ」と、少し不安になりながらも了承の返事をする。
だが、奏根の違和感はますます深まるばかりだった。
「にしてもあの匂い……いや、まさかな」
独り言の様に呟きながら、思案顔になる奏根。
ただの勘違いだと言う懸念を忘れ、再び試合に集中する奏根。
点数は百十一対百二十八。
飛翔がドリブルしてハーフラインにまで近付いてくる。
加奈が前へ出る。
すると、代野とマッチアップしていた芙美が首を傾げる。
目の前に居る代野が頬を赤らめ、少し目が虚ろ気味。
しかも、代野からある匂いがしてきた。
まさかと思った芙美は、何か危険な物を代野から感じ取り、すぐさま乱歩・気流を発動し、六人の芙美で、代野の周囲を覆い囲むようにしてスクリーンをかける。
これならどんなパスが来ても代野は受け取れられない。
芙美はディフェンスの構えを取っていると、代野はフラフラとし始めた。
すると、飛翔は、ガチガチで固められていたはずの代野にパスを出した。
またもやエアコネクトか?
しかし、もう飛翔のエクストラロードは効果切れ。
だとすれば一体?
そこで代野は本物の芙美かもわからなかったはずなのに、芙美を無視して体当たりでもするかのように、飛翔がパスしてくれたボールにまで飛び出す、
それに理亜たちは驚愕する。
「ウソ⁉ 本物の芙美ちゃんかもわからずファール覚悟で突っ込んだ⁉」
智古が怪訝な面持ちで驚く。
代野はボールを受け取ると、両手にボールを持ち、少し前かがみになっていた。
急いで代野の元に六人の芙美が戻る。
代野の前に三人と背後に二人の芙美。
本物の芙美は横から代野のボールを奪おうと手を伸ばす。
すると、代野は「ひっく」としゃっくりをした。
そして代野は、まるで相手を翻弄するかのように、ゆらゆらと動き始める。
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