
第四十四章 乱歩・気流 敗れる? 四話
「いよいよだね」
「うむ、ここで投入するとはな」
エノアが生唾をごくりと飲み込むと、芙美は敵意を込め、イリアスを見る。
聖加がロングパスで、ハーフラインに居た奏根にパスを出す。
すると、奏根は遥の前に行くと見せかけ、その場でレッグスルーをすると、再びサイクロンシュートネクストを打つ構えになる。
前に来られると思い、体制を崩してしまった遥。
ボールを宙に放り投げ、捻った体をグルリと巻こうとするその時。
パン!
「くっ!」
奏根が目の前に放り投げたボールをカットしたのはイリアスだった。
イリアスはボールを奪うと、そのまま奏根たちのコートにドリブルして向かう。
そこで、芙美が乱歩・気流を発動させる。
イリアスの前に三人の芙美。
そのイリアスの背後からボールを奪おうとしてくる芙美。
四人の芙美がイリアスに待ったをかける。
そこでイリアスはごく普通のフロントチェンジをする。
しかし。
バンバンバンバン!
なんと、超高速で、何度も左右にフロントチェンジするイリアス。
それには芙美も驚き、思わず動きを止めてしまう。
バックチェンジ、レッグスルーなど複雑な絡みの超高速ドリブル。
「どうやらイリアスさんは、相当フラストレーションが溜まっていたようですね」
くすくすと笑う銅羅。
イリアスは、動きが鈍った芙美を見逃さず、左サイドから一気に抜いた。
左のアウトサイドに向かって行くと、スリーポイントシュートの構えになる。
何とか追いついた芙美はジャンプし、ブロック体制に入る。
しかし、イリスはフェイントを入れ、右に少しずれ、スリーポイントシュートを打った。
宙のボールを、高貴がブロックしようと、知留のスクリーンを躱し、前に出る。
だが、そこで違和感を感じ取った高貴。
確かに後ろから圧迫感があったはずなのに、それが完全に消えてしまった。
スクリーンや、相手をディフェンスする際は、必ずと言って良い程、体でぶつかり合う。
だが、それが一切感じなくなった。
気付いた時には、高貴は後ろにお尻から尻餅をついてしまう。
そして、いつの間にか高貴の前に居た知留。
パス!
ネットを潜ったボール。
シュートは決まり、点数は八十三対百十二。
「大丈夫?」
「ええ。ありがとうございます」
知留は少し不安な声音で高貴に手を差し伸べると、高貴は笑みでその手を掴む。
すると、ニッコリ笑う知留。
人が笑顔になってくれるか不安だったのだろう。
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