
第五十二章 最高の思い出を君に届ける 三話
順風満帆の団欒がこれからも続く。
理亜たちを見ていた奏根たちも誰しもが思った。
だが……
「ゴホッゴホッ。ま、ま」
「彰。風邪?」
朝に起床した彰の様子から何か異変を感じた理亜は、すぐに熱を測る。
しかし、あまりにの高熱だった。
四十度はあり、すぐに血相を抱えて豪真に診断してもらった。
「そ、そんな、馬鹿な」
豪真はレントゲンやCT検査をした彰のカルテを見て、思わず絶望する。
「えっ⁉ 間質性肺炎⁉」
「ああ……もって……半年の命だ」
「……そ、そんな……」
豪真の診断結果を聞いた理亜も絶望する。
間接性肺炎とは、肺を支える組織である間質に炎症が起こった状態。炎症が進むにつれて間質が厚く、硬くなり肺の動きが悪くなってしまい、特に特発性肺線維症 (IPF) と呼ばれるタイプは進行が早く、一部のがんよりも経過が悪くなることも多い。肺がんや心不全を合併して、間質性肺炎よりもそちらで致命的になることも多い。
高齢者が罹る病の一種で、三歳の子が突然発症するなどと言うケースは殆ど聞いた事がない。
ウイルスによるものでもなく、突然発症したとしか言いようがなかぅた豪真。
あり得ない真実に、ただ、ただ、泣く事しか出来なかった理亜と豪真。
彰は、竜宮城病院の入院室で重篤患者として扱われる事になる。
幸い、理亜と豪真はかからなかったが、そんな事は関係ない。
ビニール越しでしか彰を呼びかけるなど、防護服でしか彰に障れない。
泣き止むことがない理亜と豪真。
話を聞いて駆けつけてきた、奏根たちも言葉が出てこなかった。
奏根たちも理亜たちに幸福であってほしかった。
唯一の血の繋がった家族が、今、この世を去ろうとしているのを目の当たりにして、誰が理亜を励ますことが出来るのか。
理亜には泣いて抱き合う事しか出来なかった奏根たち。
せっかくの再開が、こんな形になるなんて。
「ま……ま」
「彰⁉」
やせ細り、もう、人工呼吸器を喉から穴をあけ管を通すしかなかった彰。
そんな彰が泣きそうな顔で理亜を懸命に呼ぶ。
「ま、ま……パパ……と、一……緒に、あそ……びたい……」
「彰! わあーー! 彰――!」
彰が泣くのを堪えぐずりながらも口にする切願。
耐え切れなくなった理亜は、大粒の波ををこぼし絶叫でもするかのように泣き崩れてしまう。
両手を顔に埋め、泣き続ける理亜。
その半年後、彰は間質性肺炎でこの世を去った。
骨が見えるぐらい、瘦せ細った彰。
最後に見た彰は、ただ目をつぶりながら、必死に息を吸う所しか見てなかった理亜は、苦しくて、辛くて、悲しくて、気持ちがどうにかなりそうだった。
豪真もやつれて、酒を飲んで逃げたくなる気持ちを押し殺した。
ここで夫である自分が逃げたら、理亜はこの先、誰が守る?
それだけではなく、そんなみっともない姿を彰には見せたくなかった。
豪真は毎日、下唇を噛み締める思いで、理亜と彰に接してきた。
だが、その覚悟と努力を、神が嘲笑うかのように虚しく露となって霧散してしまう。

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