
第四十五章 影の正体 二話
ツエルブが院内から出る前の話し。
「ど、どう言う事だ」
明人は網羅聖の社長のオフィスで信じられない物を目の当たりにしていた。
それは、無残な亡骸となった、網羅聖の社長にして、サイレントトップアサシンの祥子。
それだけではない。
オフィスの中の扉の前では、五人のスーツを着た男たちも、頸動脈を斬られ絶命していた。
頸動脈を斬られ、出血死しているとみられる。
明人は狼狽していた。
信じられなかった。
一番、死ぬ事がないと思っていた、いや、確信していた人物が死んでいた事に。
「……まだ、新しい」
明人はオフィスの椅子の前で横たわっている祥子の周辺の血を手で触り、乾き具合を確かめる。
血は手に付き、少し生暖かい。
殺されてまだ間もない。
明人は、銅羅の依頼通り、そして、日本だけでなく、世界の危機になりえるかもしれない祥子を殺すつもりで、祥子のオフィスに侵入したのだ。
しかし、予期せぬ展開。
祥子は紛れもなく亡くなっている。
明人は周囲を警戒する。
物が配置されている場所の裏や、窓のカーテンの裏まで念入りに調べる。
誰かが潜んでいる可能性が高かったが、それが杞憂となり、少し安堵する明人。
だが、明人は俄かには信じられなかった。
凄腕の殺し屋、サイレントトップアサシンが、殺された事に。
もちろん、周囲に凶器らしきものは見つからない。
自殺の線は絶対にありえない。
だとしたら誰が?
明人はそこで、ツエルブの顔を脳裏を過る。
「まさか、奴が?」
しかし、警察病院で入院しているツエルブが、どうやってここまで来たのか?
祥子が招いたとは考えにくい。
仮にツエルブだとしたらどうやって、祥子を殺したのか?
扉には鍵がかかっておらず、見張りらしきものも居ない。
全くの第三者が殺したのか?
祥子は表舞台では、温厚で世話好きなイメージを、マスコミにアピールしているし、黒い噂話などないくらい、表と裏の顔を上手く使い分けている。
恨まれて殺された線もまずないだろう。
ますます、分からなくなってきた明人は、とにかく、一番の容疑者であるツエルブの元に向かおうと決心した。
この時、明人は般若の面は被らなかったのには訳があった。
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