
第四十三章 応酬の行方 四話
エノアにパスが回されると、飛翔はすぐさまボールを奪おうと、前屈姿勢で突っ込んでくる。
腰に手を当て、居合術の構え。
そこで、エノアは、飛翔に背中を見せ、ボールを手にして止まる。
ハーフラインで、ピタリと止まる飛翔。
姿勢は崩さず、まるで、木の葉が落ちてくるのを全神経を集中させるように待つ。
汗がぽたりと、コートに一滴落ちた時。
エノアは一瞬、右にフェイントを入れて、左に居る芙美にパスを出す。
しかし。
「明鏡止水、抜刀、一の太刀!」
パン!
だが背後を向いて、ボールを隠しながらパスを出したのにも関わらず、パスをカットしてしまう飛翔。
これには豪真や由紀子も驚く。
「え! あれでも駄目なの⁉」
「本当にどうなってるんでしょう? あの五番の選手」
順子も一驚し、加奈は唖然としてしまう。
カットしたボールを素早く手中に収めた飛翔。
すぐに自分たちのコートに戻りながら、芙美は奏根とダブルチームで、遥にパスを出させまいと、徹底したディフェンスをする。
「あら~。お姉さんにそこまでご執心なんて、嬉しいわ~。貴方たちも私の店で、どう?」
「お断りだ! 俺の身体はそんなに安くねえ!」
「奏根よ。今は真面に取り合うな。そもそもお主の裸体では……いや、やはり何でもない」
「お前! 今何言おうとした⁉」
漫才の様なやり取りをしていた奏根たち。
芙美は、奏根の体が、そっち系の店では通用せず、大赤字になる肉体、と脳裏を過ってしまったが抑え込んでいた。
それを見て遥はクスクス笑う。
「滋養があるかどうかは人次第よ。価値観の相違があればそれまで、私の業界でもそれは同じ。だからバスケで私が存在意義を示せる方法……」
不敵な笑みで言いながら、最後の最後に自分に胸に手を当てる遥。
すると。
「それは、常に淫らにいる事。男と女のあそこの繋がりこそ、価値観を共有できる第一歩」
なんと、ディフェンスで完全に抑えていたはずの遥がふと消え、飛翔のすぐ右横に現れる。
「「なっ!」」
それには奏根と芙美も一驚する。
すぐに飛翔が片手で右に居る遥にパスを出すと、片手で叩き付ける様にボールを一瞬手にすると、ボールは消え、リングの真上に現れる。
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