
第二十九章 輪の力 四話
「ごめーん、あの六番の選手、止めたかったけど、スクリーン躱されちゃって」
智古と加奈が奏根たちに近付き、軽く謝罪すると、奏根は「気にすんな。それより次一本取るぞ」とリーダーらしく、理亜たちを鼓舞する。
理亜たちは鋭い眼差しで頷き、すぐに、高貴が加奈にパスを出す。
すると、エノアだけでなく、聖加まで加奈のディフェンスに着く。
ダブルチームで、すぐにボールを奪い、点を取りに行くつもりのようだ。
それを読んだ智古が、いち早く加奈の斜め前に出ると、加奈は、天井に向け、片手でボールを投げだす。
すると、天井に向けられて投げられたボールは、エノアと聖加の上空を通り過ぎると、ギュルルと言った音を立てて、そのボールは智古の居る、右サイド斜め下に向かっていた。
そのパスに一驚する順子たち。
「しまった!」
エノアが、さすがに迂闊だったと言う事を嘆いていると、パスを受け取った智古。
智古は、スリーポイントラインから跳躍した。
それを確認した順子がブロックのため、高貴のスクリーンを躱し、前に出ると、同じく跳躍する。
智古は、スリーポンとラインからダンクシュートを決めようとしていた。
それを読んでいた順子は、必ず止める、と言う強い意志で、ブロックしようとする。
リング下まで近付いてきた智古。
丁度、智古とぶつかる位置に居合わせる順子。
観客たちが見守る中、智古は両手に持ち替えると、ダンクする構えを取る。
そして、ダンクしようと振り下ろした両手に握られたボールに、順子の手が重なる。
だが、智古の方が押され、弾かれると言う瞬間だった。
なんと、いつの間にか、高貴が智古の手に手を重ね、押し返そうとしていた。
それには順子も驚く。
ドカン!
とうとう、決まった。
智古と高貴が結託した力で、強引にダンクを決めたのだ。
順子は弾みで、コートの下に尻餅をつく。
「す、すいません!」
すると、高貴が心配した面持ちで順子に片手を伸ばす。
「おう、悪いな」
順子はにこやかな表情で、その手を握り返すと、すくっ、と立ち上がった。
「ピー―! 白五番! プッシング!」
「ああー。やっぱりかあ―」
そこで、審判役のお兄さんが、力強い声でそう宣言すると、智古は落ち込んだ様子で片腕を上げる。
「すいません、もしかしたら私が智古さんを押したかもしれません」
「うううん、そんな事ないよ。フォローしてくれてありがとね。高貴ちゃん♪」
高貴が誠意を込め謝罪するが、智古は満面の笑みで、言葉を返す。


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