
第三章 懐かしい感覚を置き去りにして 四話
だが、理亜には見えていた。
ボールを目で追える。
そして、理亜はゴールリングを見て、ドリブルする。
そのスピードも普通の人間の目にはぼやける程度にしか見えない程のスピード。
理亜はそのスピードのままレイアップシュートしようと思ったが、バックボードを超え、そのまま二階のランニングコースにまで飛び上がった。
綺麗なフォームのままランニングコースに着地した理亜は目をギョッとさせる。
「どうだ? 人間離れした超人的な力を手に入れた感想は?」
「うん! 凄い凄い!」
豪真は理亜の近くまで近付き、下の階からそう聞くと、理亜ははしゃぎながら答える。
すると、一階のアリーナに四人の女子と中年の男が入ってきた。
「来たよ。監督」
「おお。来たか」
すらっとした体形で、ボブヘアーの可愛い系の女子が豪真にフレンドリーにそう言うと、豪真も同じ様子で言葉を返す。
「理亜。こっちに来い」
「うん。分かった」
豪真の呼びかけにすぐに返事をした理亜は、二階から一階に降りる。
アリーナの入り口から入った理亜。
そこで、白いユニフォームを着ていた女子が理亜に顔を向ける。
理亜は自分と同じバスケットをしている人ぐらいの認識だったが、実はそれだけではなかった。
その四人の女子は、理亜と変わらない年齢の子たちだった。
多種多様な表情を理亜に向ける女子たち。
「この子たちは、クリプバに出場する選手たちだ」
「へえー」
豪真の言葉に感嘆の声を漏らす理亜。
「ねえ監督。もしかして、試合して欲しい選手ってそいつの事?」
「ああ。よろしく頼む」
赤髪で短髪のキリっとした表情の女の子が、棘のある言い方で理亜を睨みつける。
そして、その短髪の女子は、理亜に近付くと、四方八方からまじまじと理亜を観察する。
目つきの悪い顔で近付かれたものだから、理亜は緊張してしまう。
「ふん! 監督。いくら何でもこんな体だけが売りの女に、私たち四人で相手にしろっての? それはいくら何でも私たちの事侮りすぎゃね?」
「はあ⁉」
短髪の女子は理亜に鼻息でもかかるんじゃないかってくらい鼻で笑うと、理亜を中傷する。
理亜は少しキレる。
「まあそう言うな。その子は、去年のインターハイ優勝校のエースだ。おまけに一週間前には君たちと同じ、ぺナルトギアを付けている」
豪真の言っている事に納得出来ない感じの短髪の女子は敵意をたぎらせ続ける。
「ねえ。豪真さん。ペナルトギアって何?」
「理亜。君の付けている義足の名称だ」
理亜が首を傾げると、豪真が淡々と答える。
「ふん! ペナルトギアも知らない素人に負けるわけねえだろ。良いぜ。インターハイ優勝校のエースだかなんだか知らねえが、完膚なきまで負かしてやるよ」
短髪の女子が理亜を睨みつけながら宣戦布告する。
理亜には敵意はない物の、良い感じがしなかったので、「あの女に勝ちたい」と言う感情だけは確かに感じていた。
すると、カチューシャで銀髪の前髪を上げていた優しい系の女子が、理亜にテクテクとした足取りで近付いて行く。
「気にしないで。奏(そう)根(ね)ちゃん、ルックスがよくて胸が大きくて可愛い女の子が大の嫌いなだけだから、貴女(あなた)に嫉妬してるのよ」
笑顔で理亜に耳打ちしてくるカチューシャの女子。
理亜はその話を聞いて、あの奏根と言う女子に勝てた物がある事に思わず誇示しそうになるくらい、喜んでしまう。
「なにニヤニヤ笑ってるんだ。気持ち悪い」
奏根は不快だとでも言いたげに理亜を罵ると、理亜は改めて奏根のスリーサイズと顔を確認する。
男っぽい顔立ちに、ぺったんこな胸と膨らみが感じられないつるペタなお尻。
「何でもないよ。せっかくだから私からアドバイスしてあげる。女子力あげるなら貴女の場合、内面だけに全神経注いだ方が良いよ。この先ずっと」
「てめえ! 喧嘩売っとんのかコラ!」
方や笑顔で方や憤怒。
既に、火花が弾け飛ぶ程、二人は戦闘態勢だった。
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